カレー沢薫は天才だと思った。あなたにも、この本を読んでもらえば理解して頂けるはずだ。これは彼女のコラムを一つにまとめた、現時点で最高峰の自虐で笑える文庫本ではなかろうか。
天才的ニヒル表現
超豊富な語彙と、その話題に応じた言葉を選ぶセンスが切れ切れである。自分に対する徹底的な自虐をしつつ、読み手の心を巧みにくすぐり、声を出して笑わずにはいられない状況に追い込まれるのだ。
コラム#1~#136まで、私は笑わなかった回がない。それほどまでに、全編にわたり笑える構成になっている。
まえがきの一部から、気に入った部分を引用させていただく。
本書は現代社会に氾濫している「そんなに頑張らなくていい、肩の力を抜け、ありのままの自分を愛せ、ゆるふわ」といった趣旨の自己啓発本であり、この本と一緒に練炭を買えば必ず人生が楽になると保証する、とでも言っておく。
まえがき より
この強烈なニヒリズムを感じさせる一文を読んで、購入を決めた。レジまで本を持っていくことに躊躇はなかった。結果的には良い買い物をしたと思っている。昨日はこれを読んで、ずっと一人で笑っていたからだ。
お気に入りのエピソード
(前略)
それが私の一番好きな映画である。
そのタイトルは『ディープブルー』。知能を持った巨大サメに人がどんどん食い殺されるというB級映画だが、とにかく私のように明るく楽しいものを憎んで生きている者必見の映画なのだ。
(中略)
ラストのほうで主人公、ヒロイン、ムードメーカーの小太りコック、の3人だけになってしまう。
誰しも最後の最後で、このコックが死んで主人公とヒロインが生き残り、「全然ハッピーじゃないのにハッピーエンド」となるんだろうな、と予想するのだが、なんとサメさんがお召し上がりになったのは、ヒロインなのであった。
(中略)
最後に生き残ったのはイケメンの主人公と太っちょコック、というなんとも清々しいバディなのである。さらに主人公も、「助かったけどヒロイン死なせちゃってブルー」などという心情は微塵も感じさせない爽やかな笑顔を披露してくれる。
このように『ディープブルー』は、一般映画ファンからすればB級かもしれないが、我ら非リア充にとってはトリプルS級の映画なのである。
#69 我々にとっての名作 より
自虐的に、テンポ良く、ユニークな語りでつい笑わされてしまう。これが全編にわたって、様々なエピソードとして語られている。著者であるカレー沢薫氏は漫画家でもあり、各コラムにゆるふわなキャラクターが挿絵として登場する。これも見どころの一つだ。
読みだしたら止まらない、自虐で笑えるコラム集『負ける技術』ぜひ読んで頂きたい一冊である。