羆の人生記

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本『入門犯罪心理学』感想 治療の概念が重要

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テレビのニュースを見て「あー、この人は家庭環境が複雑だから...」だとか「違法ドラッグ使ってたんだ、言わんこっちゃない」でネガティブな感情を抱いて「こんな人種は刑務所に入って社会に出てこないでほしい」←ここで思考を止める人はこの記事を読み進めてください。とりあえず

犯罪の厳罰化は抑止効果がないそうですよ。

犯罪について

世界の犯罪データでは

  1. どの国にも犯罪を繰り返すものが一定数存在
  2. 国によってばらつきがあるがおおよそ人口の数パーセント
  3. この少数が世の中の全犯罪の6割以上に関与

犯罪というのはみんなが関わるものではなく、むしろ一生無縁の人が多数派であり、再販を繰り返すものが多いということです。

 

青年期限定型犯罪者と障害継続型犯罪者

前者は「若いころは無茶をやったけど大人になって社会で犯罪に関与せず働いている」パターンです。みなさんのまわりや勤め先にもいませんか、元族のTOPだったとかそういう武勇伝のある人。うちの会社にはいますよ。こういう人は「かつて無茶をやった」に過ぎないケースです。

後者は子供のころから問題行動が多く、大人になっても社会化が進まず犯罪を繰り返す人です。数々の遺伝的要因や称徳的要因が関与しているとのこと。詳しくは書籍内で確認していただきたいのですが、こういった人たちの治療も犯罪心理学の課題と言えます。人口の数パーセント存在すると言われています。

 

日本の刑法犯罪認知件数

2013年犯罪白書によりますと

  • 刑法犯認知件数191万7929件
  • 特別法犯検察庁受理件数45万390件
  • 刑法犯で最も多いのが窃盗
  • 特別法犯で道路交通法違反に次ぎ多いのが覚せい剤
  • 殺人は938件

法務省:平成26年版犯罪白書のあらまし

 

窃盗に次いで多いのは「詐欺」ですが、俗称オレオレ詐欺などのいわゆる特殊詐欺よりも「無銭飲食」が多くを占め、その中でも累犯、刑務所から出所して行き場がなく、刑務所へ戻るために起こす無銭飲食(詐欺)が問題化しているとのこと。

 

殺人について

河合幹雄の分析によると殺人事件のほとんどが家族や友人間で起きており、面識のない相手に殺されたケースは11.1%で全体の約1割に過ぎないとのこと。これを鑑みると「知らない相手に殺されることが増えて物騒な世の中になっている」とは言い難いことが理解できます。

また、世界中を見渡しても日本ほど安全で治安のよい国はほかになく、国連薬物・犯罪事務所の「殺人に関する国際研究」によれば人口10万人あたりの殺人発生件率は日本が0.3であるのに対し、世界で最も殺人発生率が高い中米のホンジュラスでは90.4で日本の約300倍。この国際比較を見ても日本がいかに治安が良いか安全な国かということが理解できます。もちろん、これは殺人を看過する材料にはなり得ませんけども。

 


以上、犯罪について書籍内で述べられている箇所を部分的に紹介しました。

 

犯罪に対する誤った認識について

以下をご覧ください。

・少年事件の凶悪化が進んでいる

・日本の治安は悪化している

・性犯罪の再犯率は高い

・厳罰化は犯罪の抑制に効果がある

・貧困や精神障害は犯罪の原因である

・虐待をされた子どもは非行に走りやすい

・薬物がやめられないのは、意志が弱いからだ

ー『入門犯罪心理学』より

 

さてさて、どれほどの人がこれらを否定できますか?

 

これ、全部誤った認識です。

 

書籍内では各項目について解説を交えて誤りであることの根拠を述べています。僕は過去に『暴力の人類史』という書籍を読んで、世界の暴力は減衰していることを知識として得ていましたから、これら項目はほとんどが既知だったわけですが、「虐待をされた子どもは非行に走りやすい」について、このように認識していました。これは誤っていたのです。

 

虐待された子どもの中でもMAOA遺伝子を持っていない場合は相乗効果的にその傾向が有意に表れてしまうのですが、 この遺伝子を有している子どもは劣悪な虐待環境下でも反社会的なパーソナリティを形成しにくいことがわかっています。つまり「被虐児=将来は非行に走る」というのは誤った認識ということですね。

 

どうでしょうか、身の回りにいる人はこれらの認識を正しく有していますか?少なくとも僕の周りの、主に情報源をテレビに頼っている人たちは、どうもそうではないようで誤った認識をしているようです。ついこの前、犯罪に関して「殺人は年々減衰傾向にある」という話をしたら「え、そうなの!?どんどん治安が悪化しているかと思っていた」との感想を聞きました。う~ん、いかにテレビメディアの伝えることを鵜呑みにしているのかというのが良くわかります。

 

著者が伝えたいこと

日本では昨今、犯罪の厳罰化が進んでいますが、厳罰化は犯罪の抑制効果がないことがわかっています。にもかかわらずその逆の路線に舵を取っている。

 

著者はこう述べます、

「犯罪は忌むべきもので肯定はできない、ただ世論は感情が先行して再犯防止を含めた「治療」という概念が希薄である。罪刑均衡の観点から罪に対して科せられるべき相応の罰は必要だが、罰するだけでは根本的解決にはならない」

と。これは書籍を読んで僕が意訳したものです。

 

確かにそうです、ニュースを伝えるメディアはエモーショナルに、脚色的に物事を伝えます。また、バイアスを助長するかの如く「容疑者は○○を所有していた」「××のような嗜癖を有していた」などを前面に押し出して伝えがちです。これによって情報を受け取った側はこれと犯罪を容易に結びつけて早合点し、「なるほど今回の件はこれが原因か」と短絡的に考えがちです。

 

でも、これでは根本的に解決しません、犯罪に関わった人間の遺伝的、環境的要因を含めてすべてをアセスメントし、治療の概念を取り入れて「いかに再犯を防ぐか」「同様の犯罪を予防するか」が肝心なのです。ニュースバリューに彩られたメディアの情報を鵜呑みにしないで、極力バイアスを排除し、事件の背景に想いを馳せる必要があると思います。

 

さらに、この書籍ではもうひとつ重要な概念を繰り返し提唱しています、それは科学を根拠にする「エビデンスに基づいた施策が重要である」ということです。医療の分野でも統計的に効果のある治療を取り入れる傾向が進んでおり、これも犯罪抑止や治療に積極的に導入することが必要というのです。

 

いかに専門家とはいえ、犯罪者を主観的にアセスメントして評価や処置を下すことは非常にあいまいで信頼性に欠けるといいます。精神論や根性論は排除すべき、と。そうではなくて「この治療は調査により効果が上がることが認められた」と確認できたものについて実施していくべきだと説きます。人間ほど曖昧なものはなく、間違いを犯すものだということを念頭に置いて犯罪治療を勧めるべきということですね。

 


 

僕は従来まで「犯罪は厳罰化で対処すべきだ」という考え方で凝り固まっていました。でも、この書籍を読んで再考せざるを得ません。犯罪を犯した者へ憎しみを込めて懲罰を課す、でも課したあとにそれがどのような効果をもたらすか、など想像もしていなかった。

 

完全に想像力の欠如ですよ。刑罰を重くすることが、犯罪の抑止に効果がない...。この強烈な事実は、目を背けてはならないと思います。

 

おそらく、今までの僕と同じような考えを持っている人は、この事実を知りません。きっと、これを知識として吸収できれば、あとは犯罪の厳罰化がひとりよがりで何の統計的データに基づくものではない感情論である、ということに気づけるはずです。

 

だから、多くの人にこの書籍を手に取って学んでパラダイムシフトを引き起こしてほしい。今までは犯罪に対して「穢れ」「蔑視」しか持てなかった人が、「治療」という発想ができるようになってくれれば。それがこの記事を書いた僕の最大の願いであります。

 

メディアの煽情的な報道に惑わされることのなく、多くの人が冷静な眼差しで事案を見つめる社会が到来することを祈って筆を置きます。

 

記事内で述べたことを詳細に、データに基づいてわかりやすく記載されています。また、犯罪に関する要素「セントラルエイト」や、実際に行ってきた犯罪者治療の知見も非常に有用な知識となります。必読。

 

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追記

刑法厳罰化の抑止効果についてブックマークコメントを頂きましたので参考にさせていただきます。