黒川伊保子著「妻のトリセツ」を読んだ感想など。
内容
人工知能研究者・脳科学コメンテーター・感性アナリスト・随筆家の肩書を持つ筆者が、世の男性の多くが悩まされる妻の言動に対する処方箋的な教えを展開するものです。
感想
賛否両論あるみたいですね。
胸がすく思いをした!という女性の感想もあるようですし、または「ふざけんなよ」「めんどくせえ」という男性の感想も。この内容ならば、そりゃ起きますよねこういう感想の数々は。
で、僕は正直どう思ったのかというと
科学的根拠がない
この部分に足のつかないふわふわとしたものを感じました。
どの研究で、どの論文でこのような調査が行われて、その結果によると・・・という明確な根拠がほとんど示されていないんですよね。
だから、書かれていることはあくまでも「参考にすることが望ましい」程度です。この本にこう書かれていたから、こうなんだ!と人に熱弁をふるってしまうのは、某でっかTVで得た知識をさも真理として人に伝えてしまうようなもの。
書かれていたことは、近所の奥さんに聞く限りでは、こうらしいよ・・・くらいの感覚でとらえていないと、赤っ恥をかいてしまうかもしれない。
臭いものにふた
締めの言葉によく出てくる「とにかく謝れ」って、男性に対する指南としてはあまりにも雑というか、「それじゃあ臭いものにふたじゃん」という所感の域を出ません。
生物学的に脳が違うんだから諦めろ!と突き放されているようにも感じます。こんなことで、はたして夫婦関係はうまくいくのでしょうか。ここらへんは後述します。
「めんどくさい妻のトリセツ」
世の女性のほとんどが、書籍に書かれているような察してちゃんな奥さんだったら、離婚率は今よりももっと跳ね上がると思うんですよね。でも、きっとそうじゃない。度量の深い妻あるいは、もっとおおらかな妻はたくさんいるはずなんですよね。
だから、この本のタイトルは「妻のトリセツ」ではなく「めんどくさい妻のトリセツ」と題したほうが適切なんじゃないかと思います。
夫婦はコミュニケーションをとろうよ
この本に書かれていることを心に落とし込んで、共感することを忘れず、時には謝罪することで穏便にいこうとしているあなたには、いくばかりかの薬効があるかもわかりません。
しかし、妻があまりにも理不尽なことを言っている場合に、それに自分の言いたいことも言えずにただただ納得のいかないままに謝罪していては、自分の心に嘘をつくことになる。認知的不協和が起きてしまいます。
そうしてため込んだものが一気に爆発し、別居や離婚という悲惨な状態に突入してしまうのです。かくいう僕もそのパターン。
だから、どうしても納得がいかないのであれば、「君の気持ちは理解できる部分もある。でも、僕はここが納得いかないし、辛い思いをしている。」と、面と向かってはっきり言った方がいいと思うんですよ。
言葉にしないと、相手になんか気持ちは伝わりませんよ。それは夫婦双方に共通したことです。コミュニケーションをとらないと、ダメなんですよ、家庭を長続きさせたいのなら。この本には、そういう指南にいまいち欠けているような気がする。
「女性の脳はこう!だからこうなる!それには共感!そしておどけて謝罪してみよう!」って、そんなんで夫の溜飲が下がるとはとても思えませんよ。これは経験者の一人として言っているんです。
言葉にするにしても、相手に対する罵詈雑言や人格否定はタブーです。自信を持って言えることは、これですね。馬鹿あほ間抜けはダメ絶対。そうじゃなくて、相手の言動や行為に対して、「その言葉や行為に傷ついたんだよ」ということを、しっかりと伝えてやる。頭に血が上っている時はなかなか素直に聞けないかもしれませんが、聞こえている以上は脳に必ず入っているんです。それが時間が経って理解するに至ることも珍しくありません。むしろ、こういうパターンで仲直りできることの方が、多いんじゃないですか?
女性は産前産後のホルモンバランス乱流で心身ともにズタボロ、家庭という閉鎖的なところで未経験の育児に辟易し、乳飲み子を抱えて責任感と葛藤に押しつぶされそうになってしまう。そういう壮絶な状況にさらされてしまう。この事実は、夫になる人全員が知るべきです。そうすることで、共感もよりいっそう捗ることでしょう。
しかしながら、男性がすべてを押し殺して、おどけたピエロになって、納得のいかないことで謝り倒す必要などないのです。認知的不協和を起こす手前くらいまでなら、「ごめんごめん」ができるかもしれないんですけど、心をぽっきりと折ってまでごめんを続けると、夫の方がつぶれちゃいますよ。だから、戦わなきゃいけないこともあるんですよ。もちろん、相手の尊厳をえぐる闘いではなく、「自分はどう思っている、何が辛いのか」をしっかりと伝えるための闘いです。
心と裏腹シリーズ
かなり話題になった部分ですね。インターネッツではここを切り取って女性の面倒くささについて揶揄し、酒の肴にして男女の分断をこれでもかと助長したようです。
「あっち行って!」
→あなたのせいでめちゃめちゃ傷ついたの。ちゃんと謝って、慰めて!
「勝手にすれば」
→勝手になんてしたら許さないよ。私の言うことをちゃんと聞いて。
「自分でやるからいい」
→察してやってよ。察する気がないのは愛がないってことだね。
「どうしてそうなの?」
→理由なんて聞いてない。あなたの言動で、私は傷ついているの。
「なんでもない」
→私、怒ってるんですけど?私、泣いているんですけど?放っておく気なの?
「一人にして」
→この状況で本当に一人にしたら、絶対に許さない。
「みんな私が悪いんだよね」
→えっ?それって私が悪いの?私のせいなの?あなたのせいでしょ。
「やらなくていいよ」
→そんな嫌そうにやるならもう結構。私はあなたの何倍も家事してますけどね。
「理屈じゃないの」
→正論はもうたくさん。「愛してるから、君の言う通りでいい」って言いなさい。
「別れる」
→ここは引けないの。あなたから謝って!
中高生の恋の駆け引きよろしく、言葉とはほぼ真逆のことを相手に求めてしまうというこの文脈、果たしてあなたには読み解けるでしょうか。
はっきり言ってコミュ障のそれと言わざるを得ません。複雑な家庭環境や人間関係がこのような性格の土壌を形成してしまったのかと思うと、憐憫の念を禁じ得ない。
・・・とかいいつつ、現在お付き合いしている女性は項目をフルコンプしているので、とても他人ごとではありません。
で、こういう超絶めんどくさい構ってちゃんの対処としては、「慣れるしかない」というところです。最初は「こいつ大丈夫か」と思ってしまいますし、僕は初期の頃に本気で精神科の受診を勧めたことがあります。悪気は一切なく、本当に精神疾患で治療が必要とすら感じたんですもの。
でも、慣れましたね。慣れ、すげえな。神様かよ。
ほとんどの裏腹ワードを変換することのできるソフトを、脳内にインストールすることに成功しました。他所でこういった話をすると「それ、よく付き合ってるね」と言われますが、アップデートされた僕の脳は「え、大したことないよいつものことだもん」となる。ここまでくれば大成功。あとは共依存の道をまっしぐらです。
少しまじめな話になりますが、こういう裏腹構ってちゃんも、実はこっちの話をちゃーんと聞いています。自分の気持ちを正直にぶつけてやる。時には、怒りも伴う。もちろん、人格否定や罵詈雑言は無しで。そうすると、あら不思議、時間が経つとそのことを理解してくれるんですね。ちゃんと通じるし、少しずつでも変化してくれるんです。だから、コミュニケーションをあきらめてはいけない。
相手は頭に血がのぼると、こういう裏腹モードに突入してしまうんです。そうなれば、もう何を言ってもその場での解決は不可能。まずは慣れるべし。たいていのことは「ああ、また始まったか」くらいで処理をする。あまりにも、目に余ることがあるならば、叱りつけてやる、そして自分の気持ちをしっかりと伝える。それが時間が経って相手の脳に落ちていけば、行動にわずかながらでも変化は訪れるものなのです。
以上、感想。
共感大事、お互いを尊重することが大事、コミュニケーションとろうって話。
おどけて謝れば万事解決ではない。